中高年(50〜60歳代)の方の矯正治療について
ここ最近、「人生100年」と言われますが、厚生労働省から2023年7月に2022年分の「平均寿命」が、男性81.05 歳、女性87.09歳と発表されました。1955年に男性63.60歳、女性67.75歳だったことを考えると、60年間で20年近く長生きになったといえます(図1:厚労省HPより)。
- 「今まで歯並びが気になっていたが年齢的に矯正治療できないと思っていた」
- 「子供の頃に一度矯正治療をしたことがあるが、年々悪くなってきた」
- 「歯が保たなくなって抜歯されたが、インプラントを入れるのが嫌」
- 「かかりつけの歯科で歯を治療するためには矯正治療した方がよいと言われた」
- 「いつまでも自分の歯でおいしく食べたい」
などという訴えでご相談に来られる方も増え、中高年の方の矯正治療のニーズの高まりを実感しています。
一方、厚生労働省は国民の健康増進のため、「健康寿命」つまり「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を伸ばすことを大きな目的の一つに位置付けました。
現状では平均寿命と健康寿命との間には、男性では約9年、女性では約12年もかい離があります(図2:厚労省HPより)。
これは何らかの介護が必要な生活を10年間くらい送らなければならないということです。
「健康寿命」を延ばして、介護が必要な期間ができるだけ短い方が本人にとっても家族にとってもハッピーですよね。
「健康寿命」を延ばすには、いつまでも美味しく食べられることが重要です。
そのためには健康な歯並び・噛み合わせがキーポイントになってきます!
現役時代が延長されて元気な中高年の方が増えた今、この年齢の方の特徴・留意点をよく理解して、安心・安全な矯正治療を受けて、健康な歯並び・噛み合わせを獲得しましょう!
50〜60歳代の方の口腔内の特徴
01歯肉退縮
歯を動かすためには歯や歯肉に負担がかかります。矯正力が加わると歯は歯根膜を介して歯槽骨の形を変えながら動いていきます。
そのため、歯の移動により歯肉の位置が変化することで歯ぐきが下がったり(歯肉退縮)、下がったように見える(ブラックトライアングル)ことがあります。
中高年の方の歯肉退縮している歯に矯正力を加えることは、歯肉退縮を進行させ歯の動揺が増す可能性があるので、矯正歯科治療は制限される場合があります。
02歯周病
矯正装置が入ると、歯磨きが難しくなります。適切な歯磨きができないと、むし歯、歯周疾患が生じる場合があります。
歯周病になると歯と歯ぐきの間の溝が病的な「歯周ポケット」となり、汚れが溜まり、歯ぐきが腫れたり歯を支えている骨が徐々に溶かされ、歯が動揺するようになります。
歯周病が進行すると、矯正治療を行うことが難しくなりますので、まずは歯周病の治療を優先します。
03欠損歯が多い
矯正歯科治療は、隣り合った歯と歯で相互に押し合ったり、引き合ったりして動かす治療です。
残っている歯の本数が極端に少ない場合は、矯正力をかけることが難しくなります。
歯科矯正用アンカースクリューを用いることにより治療が可能となる場合もあります。
04補綴物(ブリッジ・インプラントなど)が多い
歯列不正に合わせた形の治療された歯が矯正歯科治療の妨げになる場合があります。ブリッジやインプラントは矯正歯科治療では動かせないので、該当の歯を動かさない設定にしたり、矯正歯科治療前にブリッジを切り離してから動かすなど、治療方針を検討する必要があります。
被せ物などの補綴物は矯正治療後に再治療を行う必要があります。
05包括的(矯正+補綴+歯周+口腔外科など複数の歯科領域にまたがる)治療が必要
矯正治療前には歯周治療や外科的処置を行い、良好な歯周組織になった上で治療を開始し、治療中は口腔衛生管理を継続し、治療後には再構築された歯列に合わせた補綴処置、インプラント等の外科的処置が必要になる場合が多く、複数の歯科領域にまたがる包括的観点から治療計画を立てる必要があります。
50〜60歳代の方の矯正治療における留意点
01全身疾患(糖尿病、骨粗鬆症、心臓病、がんなど)
糖尿病や骨粗鬆症などの全身疾患がある方は、むし歯や歯周病が進行して口腔内の状態が悪いケースが多く、そのままでは矯正歯科治療を行うことは難しい場合もあります。
糖尿病や骨粗鬆症などの疾患がある場合は、薬物療法を中心に血糖コントロール、食事療法、運動療法を行い、身体の状態を改善することが重要です。
身体の状態の改善に加え、適切な歯科治療(定期検診、歯のクリーニング)で口腔内の状態を改善してから矯正歯科治療を実施することが望ましいです。